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高松地方裁判所 平成6年(わ)338号 判決

主文

被告人を懲役四年六か月及び罰金三〇万円に処する。

未決勾留日数のうち四〇日を懲役刑に算入する。

罰金を全額納めることができないときは、その未納分について五〇〇〇円を一日に換算した期間、被告人を労役場に留置する。

回転弾倉式けん銃一丁(平成六年押第五五号の1)、実包合計一九発(同号の2、3)、覚せい剤結晶性粉末(チャック付きポリ袋付き)鑑定残量合計六・七〇八グラム(同号の54、59)及び覚せい剤結晶性粉末(ポリ袋付き)鑑定残量合計一・八四四グラム(同号の55から58まで)を没収する。

理由

(犯罪事実)

第一  被告人は、法定の除外事由がないのに、平成六年一一月三日午前五時ころ、高松市屋島××××の自宅で、フェニルメチルアミノプロパンを含有する覚せい剤約〇・〇七グラムを水に溶かして自己の右腕に注射して使用した。

第二  被告人は、Aと共謀して、法定の除外事由がないのに、第一記載の日時場所で、前同様の覚せい剤約〇・〇二グラムを水に溶かしてAの右腕に注射してやって使用した。

第三  被告人は、いずれも法定の除外事由がないのに、同月六日午前九時四五分ころ、高松市多賀町三丁目一五番二号の高松第一病院北側駐車場に駐車中の乗用車内で、回転弾倉式けん銃一丁(平成六年押第五五号の1)及びこれに適合する火薬類である実包合計一九発(同号の2、3)を、共に保管して所持した。

第四  被告人は、Aと共謀して、営利の目的で、同月六日ころ、香川県丸亀市川西町北○○○○所在のA方で、覚せい剤であるフェニルメチルアミノプロパン塩酸塩三七・八九七グラム(同号の4から53まではその鑑定残量)をみだりに所持した。

第五  被告人は、営利の目的で、同日ころ、高松市多賀町三丁目一五番二号の高松第一病院△△△号室の被告人の居室で、前同様の覚せい剤六・八〇七グラム(同号の54、55から58まではその鑑定残量)をみだりに所持した。

第六  被告人は、同月八日午後五時二〇分ころ、高松市屋島西町××××の自宅で、前同様の覚せい剤一・七六五グラム(同号の59はその鑑定残量)をみだりに所持した。

(証拠)〈省略〉

(累犯前科)

一  事実

平成四年五月一一日高松地方裁判所丸亀支部宣告

覚せい剤取締法違反の罪により懲役二年四月

平成六年七月二七日刑の執行終了

二  証拠

前科調書(検二四)、調書判決(謄本、検三六)

(法令の適用)

一  罰条

1  第一、第二の各事実

いずれも覚せい剤取締法四一条の三第一項一号、一九条(第二の事実につき更に刑法六〇条)

2  第三の事実のうち

けん銃所持の点

銃砲刀剣類所持等取締法三一条の二第二項、一項、三条一項

実包所持の点

火薬類取締法五九条二号、二一条

3  第四、第五の各事実

いずれも覚せい剤取締法四一条の二第二項、一項(第四の事実につき更に刑法六〇条)

4  第六の事実

覚せい剤取締法四一条の二第一項

二  科刑上一罪の処理

第三の事実について

刑法五四条一項前段、一〇条(一罪として重い銃砲刀剣類所持等取締法違反罪の刑で処断)

三  刑種の選択

第四、第五の各罪について

情状により懲役刑及び罰金刑を選択

四  再犯加重

1  第一から第三まで及び第六の各罪の刑について

それぞれ刑法五六条一項、五七条(第三の罪の刑につき更に刑法一四条)

2  第四、第五の各罪の懲役刑について

それぞれ刑法五六条一項、五七条、一四条

五  併合罪(刑法四五条前段)の処理

1  懲役刑について

刑法四七条本文、一〇条、一四条(最も重い第三の罪の刑に加重)

2  罰金刑について

刑法四八条一項、二項(懲役刑と併科、第四、第五の各罪所定の罰金額を合算)

六  未決勾留日数の算入 刑法二一条

七  没収

1  回転弾倉式けん銃一丁(平成六年押第五五号の1)及び実包合計一九発(同号の2、3)について 刑法一九条一項一号、二項本文

2  覚せい剤結晶性粉末鑑定残量合計八・五五二グラム(同号の54から59まで)について 覚せい剤取締法四一条の八第一項本文

3  なお、判決書(謄本、検一五八)、前科調書(検一五七)及び本件記録によれば、覚せい剤結晶性粉末鑑定残量合計三七・七三四グラム(平成六年押第五五号の4から53まで)は、本件と併合審理されていないAに対する覚せい剤取締法違反被告事件(高松地方裁判所平成六年(わ)第三三六号、第三八七号)の関係でまず裁判所に押収され(平成七年押第一号の1から50まで)た後、本件で二重押収されたものであるところ、Aに対する有罪判決において、右覚せい剤を没収する旨の裁判が言い渡され既に確定していることが認められる。ところで、裁判所が現に押収している物件について没収の裁判が確定した場合には、右裁判の確定と同時に国庫帰属の効力を生じるというべきであるから、その後に同一物件を重ねて没収する余地はない。そうすると、前記覚せい剤結晶性粉末は、Aに対する没収の裁判の確定によって既に国庫に帰属しているので、被告人に対して、その没収の言渡しはしないこととする。

(争点に対する判断)

一  弁護人は、第三の事実のうちけん銃所持の点について、本件けん銃は、撃針を固定する部分に不具合があって、そのままでは金属製弾丸を発射する機能を有しないから、銃砲刀剣類所持等取締法二条一項にいう「けん銃」に該当せず、被告人は無罪であると主張する。

二  しかし、故障等のためそのままでは弾丸発射機能を有しないものであっても、通常の修理により弾丸発射機能を回復させることが技術的に可能である場合には、同条項にいう「けん銃」に該当するというべきである。

三  前記10、11、14の証拠によれば、次の事実が認められる。

本件けん銃は機関部品が粗悪な密造銃であり、被告人がこれを所持していた当時、撃針を固定する部分に不具合を生じており、そのままでは実包の薬室中心部分を打撃することができないため、弾丸を発射することができなかった。しかし、本件けん銃が警察に押収された後、香川県警察科学捜査研究室の技術吏員が、市販されている釘二本、座金、瞬間接着剤を用いて、離脱していた撃針を撃鉄に固定し、撃発時に撃針の先端が実包の薬室中心部分に位置するよう調整を試みたところ、特別な設備や技術を要せず、数分間の作業でこれが完了した。そして、通常の操作方法によって二回の試射を行ったところ、いずれも鉛性弾丸の発射が可能であった。

四  これらの事実によれば、本件けん銃は、通常の修理により容易に弾丸発射機能を回復することが可能であったと認められるから、前記条項にいう「けん銃」に該当する。

(量刑の事情)

一  被告人は、もと暴力団幹部であったが、前刑で服役する前から暴力団関係者に対する数千万円の借金を抱えており、出所後も、なんとかして借金を返済したいと思っていた。しかし、それほど高収入を得られる見込みがあるわけではなく、知人から覚せい剤の密売で儲けた金で返済してはどうかと持ち掛けられると、乗り気ではなかったものの、他にとるべき手段もないと考えて、約一〇〇グラムの覚せい剤を仕入れて密売を始めることにした。

二  被告人は、他へ売却した残りの約五〇グラムを小分けし、そのうちの約四五グラムを、密売して利益を得る目的で所持していた(第四、第五の事実)。被告人は、自らも覚せい剤を注射して使用し(第一の事実)、情婦のAにもこれを注射してやって使用しており(第二の事実)、さらに自己使用の目的で約一・七グラムの覚せい剤を所持していた(第六の事実)。

被告人には本件と同種の覚せい剤事犯四犯を含む一四犯の前科があるが、同じく覚せい剤事犯である最終の懲役刑の執行終了後一か月余りで、覚せい剤の密売に手を出し、自己使用にも及んでいることからすると、覚せい剤にに対する親和性には強固なものがある。

三  第三の事実は、被告人が、乗用車のトランクにけん銃と適合実包合計一九発を共に保管して所持した事犯である。本件けん銃は、故障のためそのままでは弾丸発射機能を有しないものであったから、その機能を有するものに比べると、本件犯行の危険性は実際にはそれほど大きくなかったということができる。しかし、本件けん銃は、前記のように、通常の修理によって容易に弾丸発射機能を回復することが可能であり、被告人自身も、機能回復を目指して、やすりで撃針部分を削るなどの工作を加えていたことからすると、その危険性は決して軽視することはできない。また、被告人は、本件けん銃が弾丸発射機能を有しないことを知りながらも、威嚇などの方法で護身用に利用する目的で所持しており、これに実包一発を装填していたうえ、そのほかにも一八発と多数の適合実包を共に所持していたことからすると、本件犯行が社会に与えた脅威は相当に大きいといわざるを得ず、この点でも、被告人の刑事責任は重大である。

四  しかし、被告人は、覚せい剤の密売による利益を現実には得ておらず、今後は覚せい剤と手を切って正業に就く決意を示している。被告人の金銭問題が解決しない限り、その実現には相当な困難が予想されるが、現在の反省の態度は顕著であり、その更生にはある程度の期待が持てる。

(求刑 懲役五年及び罰金三〇万円)

(裁判長裁判官 野口頼夫 裁判官 竹野下喜彦 裁判官 森實将人)

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